文学は、人間を根本から、励ますものでなければならない

ノーベル文学賞の受賞歴を持つ現代日本を代表する作家の、大江健三郎さん。独特の癖のある書き味で、密度の濃い名作長編小説をいくつも生み出してきました。そんな大江健三郎さんの名言をご紹介します。

じっと考える時間を持った経験は、いつか力に変わる

――たとえ、問題がすっかり解決しなかったとしても、じっと考える時間を持ったということは、後で思い出すたびに意味があったことがわかります。

何らかの問題にぶつかった時、人はいち早くその問題から解放されたいという思いから、解決を急いでしまうものです。そんな時、ただ解決を急ぐのではなく、じっと考える時間を持つというのは、かなり根気のいること。時には問題と正面から向き合わなければならないおそれから、考える時間を放棄してしまうことさえあります。しかし、ここで考える時間を持つことができる人は、それだけの力を手に入れられるのです。結局問題が解決できなかったとしても、自分の手元にはその問題を考えた経験が残るのですから。じっと考える時間を持つことの有用性は、綿密な小説を書く大江さんだからこそ、説くことができるのでしょう。

言葉の定義をもう一度見直してみる

――『教わって「知る」、それを自分で使えるようになるのが「分かる」。そのように深めるうち、初めての難しいことも自力で突破できるようになる。それが「さとる」ということ。』

「知っています」と「分かりました」は、私たちが公私を問わず普段からよく使う言葉です。しかし、私たちがこれらの言葉の定義をきちんと整理し直す機会は、ほとんどありません。この身近な言葉の定義について考える、良いきっかけとなるような名言ですね。それから、普段なかなか使うことのない「さとる」という言葉が、実は普段からの知的な活動の延長にあるのだということを、改めて意識することができます。「さとる」と聞くと「悟りを開く」のような宗教的なイメージを抱く方が多いかもしれませんが、私たちの身近には意外にも「さとる」のチャンスがいつもそばにあるのだとわかり、新鮮な気持ちがしてきます。

文学は人間を根本から励ますもの

――文学は、人間を根本から、励ますものでなければならないと思います。

昨今、国の方針によって国立大学で文系の学部の存続が危ぶまれるなど、“文学”をはじめとした諸文系の学問の意義が問われることが多くなりました。ともすると文化の衰退も免れない事態に危機感をおぼえずにいられない状況ですが、この問題について何人もの著名な文化人が声をあげる様子を見ると、却ってこれほど文系の学問の意義に注目が集まる機会もなかなかあったものではない、とある意味前向きに捉えることもできそうです。そんな呑気なことを言っていられるのも今のうちだけ、かもしれませんが。大江さんのこの名言は、そんな文学がもつ力について、シンプルに伝えています。文学は、人間を根本から励ますもの。文化には具体的に衣食住を満たすような力がありませんが、人間の生を根本から支える力があるのです。

今回は大江健三郎さんの名言をご紹介しました。数々の後世に残る作品を生み出した作家、大江健三郎さんの名言を参考に、人生がより豊かになるといいですね。